TOP > メディア掲載記事 > 日経産業新聞 H23.03.01

メディア掲載記事

ご当地ブログが仕掛けたヒット商品

浜松発「はちみつパン」 マルト神戸屋が販売

ものづくりの街、浜松市。今年初めに地元の養蜂場と製パン会社が製品化した「はちみつパン」が市民の間で話題となっている。浜松エリアを対象にしたご当地ブログポータルの運営会社が仲介役となり、発売前から関連情報をネット上で発信したところ、口コミでヒット商品となったのだ。地方経済の衰退は深刻だが、はちみつパンのヒットの軌跡を追うと、地方活性化の一つのヒントが見えてくる。

「発売1カ月で11万個突破」――。静岡県西部を対象にしたご当地ブログポータル「はまぞう」をのぞくと、こんな見出しが躍っている。今年に入って地元で話題を呼んでいるのは、製パンのマルト神戸屋と地元で人気のはちみつ店、長坂養蜂場が共同で開発したはちみつパンだ。

 「ハニーサンドマーガリン」(120円)と「ハニーアップルパイ」(150円)の2製品で、「当初目標の2倍近くの売り上げに達した。浜松だけでなく静岡県の中部や東部でも人気がある」。マルト神戸屋の石川登営業企画課長は、想像以上の市場の反応に驚きを隠さない。

 実はマルト神戸屋と長坂養蜂場の2社がつながったのには、「仕掛け人」となった地域メディアの存在がある。「はまぞう」を運営するシーポイント(浜松市)だ。まずコミュニティFMを手掛ける浜松エフエム放送(同)に地域活性化のための企画立案を呼びかけ、昨年1月には実際に4社による「はちみつパンプロジェクト」がスタートした。

 はまぞうには特設コーナーを設けて、はちみつパンの企画会議の様子やパン工場の様子をブロガーたちに発信。FM番組にも担当者が出演し、プロジェクトの狙いや進捗状況を逐一報告していった。発売前から企画や開発の様子をメディアで伝えるのは中小企業では異例だ。

 肝心のはちみつパンは味にこだわり、試行錯誤を繰り返した。長坂養蜂場を代表する製品「二代目のはちみつ」をそのままパンにはさむと流れ落ちやすい。「アップルパイ」にしてリンゴと混ぜ合わせるにも、はちみつの風味を失っては意味がない。地元に愛された最高の味を出そうと様々な工夫を凝らし、ようやく秋になって試作品が完成した。

11月末にお披露目の場として用意したのは、実際にはまぞうのブロガー十数人を集めた試食会だった。パンをほおばるブロガーたちの評判は上々。試食会の様子を撮影し、それぞれのブログで紹介していく。こうした記事が媒介となり、さらに口コミで話題は広がったようだ。

 2月に入っても当初目標を上回るペースで売れているという。マルト神戸屋の石川課長は「地元の方々がこれだけ喜んでもらえると実感できたのがうれしい。いま、次の企画を練っている」と話す。

 はまぞうに掲載されているブログ数は約2万1000で、月間のページビュー数は約1650万。国内外の大手IT企業が運営するメジャーなブログポータルと比べると小さな規模だ。しかし「地域密着のマーケティングを展開するには効率的な媒体」と野沢浩樹社長は強調する。そのことを、はちみつパンプロジェクトが実証したといえるだろう。

大手企業が新興国シフトに全力を注ぐ影で、国内の中小企業の経営環境は厳しいままだ。ただ、中小企業に打つ手がないわけではない。ネットを使って固定客以外の需要を開拓したり、他社と連携して味付けを変えたりすれば、まだ生き残りのチャンスはあるのではないだろうか。野沢社長は「地方ならではの魅力はまだたくさんある。企業や市民が気付けばチャンスはある」と話す。

 3月1日からはシーポイントが地域企業をつなぐプロジェクトの第2弾が始まる。浜松のタクシー大手が、地元を舞台にした萌え系アニメ「苺(いちご)ましまろ」のキャラクターを車体に描くラッピングタクシーを走らせる。アニメの舞台となった場所を巡る周遊コースなどを設け、浜松の観光産業を活性化するという。

 どうしても大手企業に依存しがちだったものづくりの街、浜松。リーマン・ショックや円高を経て、ようやく新しい風がふき始めたのかもしれない。

3/1付 電子版・日経産業新聞 online に全文掲載

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